銀行から借りやすくなるって本当?
決算書の内容が悪くても銀行から借りやすくなるかもしれない、という話を最近聞いたことはありませんか?
もしそんな話を耳にしていたら、それは金融庁が地域金融機関に取組を促している「事業性評価融資」のことでしょう。
事業性評価融資なんて聞いたことないぞ?という方も多いと思いますが、わかりやすく言えば、今までのように「決算書」や「担保・保証」で融資判断をするのではなく、融資先企業の「事業内容」や「成長可能性」に重点を置いて審査する融資のことです。
もっとかみ砕いて言うと「決算内容に問題があったり、担保・保証がなくても、企業の将来性を評価して行う融資」ということになります。
これまで金融機関は、不良債権の発生を避けるために、融資にあたっては決算書等の財務データに問題がないかをチェックした上で、担保や保証で債権を保全するのが一般的でした。
これは、不良債権対策を最優先課題としていた金融庁の方針によるものでしたが、金融庁が金融機関検査を通じて方針を徹底させたため、次のような副作用が生まれました。
ひとつは、金融機関が融資判断をする際に、融資先の事業内容ではなく、担保・保証の有無を必要以上に重視すること、もうひとつは、将来の経営の持続可能性よりも、過去の経営の結果である決算書を重視するようになったことです。
この結果、担保・保証はなくても事業に将来性がある中小企業や、直近の財務データは良くないものの有望な事業計画を持つベンチャー企業等は、成長資金の確保が困難な状態でした。
こうしたことから、平成26年6月24日閣議決定された「日本再興戦略」の中で、「地域活性化・地域構造改革の実現/中堅企業・中小企業・小規模事業者の革新」の「新たに構ずべき具体的施策」の中に「地域金融機関等による事業性を評価する融資の促進等」という項目が盛り込まれ、それを受けて、平成26年9月11日に金融庁が公表した「平成26事務年度金融モニタリング基本方針」にも、「事業性評価に基づく融資等」が重点施策として掲げられました。
そこには「金融機関は、財務データや担保・保証に必要以上に依存することなく、借り手企業の事業の内容や成長可能性などを適切に評価し(「事業性評価」)、融資や助言を行い、企業や産業の成長を支援していくことが求められる。(中略)金融庁としては、この面での金融機関の経営姿勢、企業の事業性評価への取組み、企業に対して現実にいかなる対応を行っているか等につき、検証を行っていく。」と書かれています。
このように、成26年9月の時点で、金融庁は「事業性評価融資」を重点施策として打ち出し、金融機関に取組みを求めたのですが、経営者の皆さんの実感はいかがでしょうか?
「たしかに金融機関の姿勢が変わったな」という企業は、残念ながらあまり見当たりません。
ほとんどの金融機関は金融庁の新方針に戸惑い、様子見を決め込んだようで、平成26年(2014)9月29日付の日本経済新聞にも、「事業性融資って何?金融庁の「宿題」に戸惑う銀行」というタイトルの記事が掲載されています。
その記事には「金融庁が打ち出した「事業性評価に基づく融資」を巡り、銀行業界に戸惑いが広がっている。事業性融資は企業が手がける事業の内容や成長性を評価して貸し出す仕組み。だが具体的に何をどうすればいいか。銀行マンには金融庁の「宿題」が難問に映るようだ。」と書かれています。
これに対して金融庁は、平成27年9月18日公表の「平成27事務年度金融行政方針」の「具体的重点施策」に「事業性評価及びそれに基づく解決策の提案・実行支援」を盛り込み、さらに金融機関の取組みを促すためのベンチマークを検討することを表明しました。
そして、平成28年9月には「金融仲介機能のベンチマーク」を公表し、平成28年10月21日公表の「平成28事務年度金融行政方針」では、「金融機関の取組みについての実態把握」の中で、「事業性評価の結果に基づく融資ができているか」を企業と金融機関からヒアリング等行うと明記し、さらには金融機関の表彰制度を新設して、事業性評価融資を着実に推進しようとしています。
一方で、同金融行政方針では、「昨事務年度に実施した企業ヒアリングでは、顧客企業からは「金融機関は相変わらず担保・保証が無いと貸してくれない」との認識が示されるなど、金融機関と顧客企業との認識に大きな相違がある」と記載しており、事業性評価融資への転換が容易ではないこともうかがわせています。
金融機関にとっては事業性評価融資は「言うは易く行うは難し」で、当分の間は試行錯誤が続くものと思われますが、金融庁のスタンスから見て、時間はかかるかもしれませんが徐々に浸透していくことは間違いありません。
今の段階ではまだ大きな期待はできませんが、財務内容が悪い企業や、担保がなく、保証協会枠も使い切っているというような企業にはチャンスとなる可能性がありますから、企業側もチャンスをつかめるように、しっかりした準備をしておくべきでしょう。